「亀甲織」を受け継ぐ「しずくいし麻の会」

謎多き麻織物「亀甲織」

 雫石を代表する手工芸のひとつ、亀甲織の特徴は、その名の通り、織地の表面を飾る亀甲模様にあります。
織りの手法としては「もじり織」に分類されますが、明度の異なる麻糸を巧みに配することで、美しい六角模様を浮かびあがらせています。

▲明治時代の制作とされる「汗はじき」。
▼このように明度の異なる糸を使用することで、亀甲模様を浮かび上がらせています。

 この亀甲織がいつ、どのように雫石に伝わったのかは今のところ定かではありません。
その由来や、どのような目的で織られたかという点については、「近江商人が伝えた」、「藩政時代には南部藩に献上され、上級武士が身に付けた」といったエピソードが語り継がれているにすぎません。
確かなところでは、亀甲織は、明治以降の雫石で、主に庶民の間で用いられたことがわかっています。軽く乾きやすい麻で透けるほどに薄く織られた亀甲織は、肌着として仕立てられ、野良着の下に着用されていました。
そのため、この時代、亀甲織は、「汗はじき」と呼ばれ、農民の必需品として愛用されていたそうです。(そもそも「亀甲織」という呼称そのものもいつの時代からなのかわかってはいません)。

 しかし、大正時代に入り、木綿の普及が進むと、麻糸を使う汗はじきは衰退していきます。汗はじきを作るためには、極めて繊細な麻糸を作る必要があり、地機を使う織り仕事も含めると、実に困難な作業がいくつも待ち受けていました。
かつてであれば、それらの仕事を難なくこなせることが女性たちの自慢のひとつだったと推測できますが、丈夫で暖かく、比較的安価な木綿は、汗はじきを衰退させたのでした。  雫石での麻の栽培は戦後まで行われていましたが、大正時代以降、汗はじきを織る人は姿を消してしまったと考えられています。

記憶を頼りに「亀甲織」を復活

 木綿の普及によって織り手が不在となってしまった亀甲織が復活したのは、昭和48年のことです。盛岡の染色家が復元に成功し、その知らせを聞いて、雫石町内の故・加藤キワさんと義妹の故・加藤ミツエさんが記憶を頼りに復元させました。
明治32年生まれの加藤キワさんは、若いころに亀甲織を織った経験があり、そのおぼろげな記憶を頼りに、思考錯誤を繰り返しての奇跡的な復元でした。
この加藤さん姉妹の亀甲織復元がきっかけとなり、昭和63年、雫石に亀甲織研究会が発足。「幻」と囁かれてきた麻織物を、土地を代表する特産品として育てようと活動がはじめられました。
その後、亀甲織研究会は、「しずくいし麻の会」として再スタート。現在は、亀甲織を受け継ぐ唯一の工房として活動を続けています。

▲麻糸を作る「麻績(おみ)」作業は、熟練した技術を必要とします。

「亀甲織」を受け継ぐ「しずくいし麻の会」

「バタンバタン」と、亀甲織専用の機織りが響く「しずくいし麻の会」の工房では、今日も会員の女性たちが、黙々と亀甲織を織っています。その表情は真剣そのもの。「美しい亀甲模様を浮かびあがらせるには、何よりも高い集中力と根気が不可欠」と女性たちは語ります。

(1)現在、「しずくいし麻の会」の会長を務める上野節子さん。ひとりひとりが創意工夫し、作品を生み出しています。
(2)「亀甲織」の伝統を守り続ける「しずくいし麻の会」の皆さん。
(3)会員の皆さんの作品。いずれも気品あふれるものばかり。オーダーメイドにも対応しているそうです。
▲「しずくいし麻の会」の工房風景。亀甲織の伝統を黙々と伝承する女性たちの姿がありました。

 また、麻の会のこだわりは、織りの部分だけではありません。織りと同様に大切にしている工程は素材作り。麻の会では、岩手県の特別許可を受けて行っている麻の栽培から、糸紡ぎ、草木による染色まで、すべての工程を会員の手で行っています。

 麻の栽培からはじまる糸づくりは、「気が遠くなるほど大変」と、会員の皆さんが口にするだけあって、一本の糸が完成するまでにはいくつもの工程があります。 とくに、実際に、土作りからはじまり、種まきと収穫を経たのちに行われる糸づくりの工程は、麻への深い理解と高度な技術が必要とされます。種まきから一本の糸が完成するまでに必要な時間は約6ケ月。その後の機織り仕事も含めると、感性までにはまさに膨大な時間を必要とします。 それでも、ひとつひとつの作業を怠らないのは、「亀甲織」への深い思い。「雫石で伝承されてきた亀甲織を、もう幻とは呼ばせない」と、心を込めて作業を続けているそうです。

 こうして苦労して制作した麻糸を使って生み出される亀甲織は、現在、和装小物ほか、ペンケースや名刺入れなど、普段使いの小物づくりに活かされています。会員ひとりひとりの創意工夫と丁寧な手仕事によって生まれる作品は、惚れ惚れするほど緻密で美しいものばかり。他の織物にはない強い個性と手のひらのぬくもりに満ちています。また、草木染めによる色彩は、優しげな風合いを放ちつつも、心に響く力強さも兼ね備えています。 機の前に座る女性たちの胸元で、鮮やかに浮かび上がる亀甲の連続模様。その眩しいほどの美しさは、彼女たちの雫石の風土への思いの深さを鮮やかに宿しています。

(上)会員の手による麻の栽培。岩手県からの特別の許可を受けて行われています。
(左)透けるという亀甲織ならではの特徴はこうしたランプシェード作品にも生かされています。
セカンドバッグ
縦20cm×横32cm×マチ4cm
10,500円
巾着セット
小:縦15cm×横19cm 大:縦26cm×横21cm
5,250円
亀甲下駄
こちらの商品は女性サイズとなっております。
15,750円